
精神分析
「こころ」を見たことがある人は、誰もいません。
「こころが病む」、「こころが苦しい」といった言い方はありますが、「こころ」そのものは、物のように触れることも形を変えることもできません。
しかし、「こころ」と書かれた字なら見ることはできますし、口に出せばその響きを聞くことはできます。
たとえば、「苦しい」という言葉も同じです。
話さなければ人に伝えることはできませんが、話してもどう伝わっているのかは分かりません。
ただし、体から来る「苦しい」という実感は、単なる言葉の響きではありません。
私たちは体で生きるのと同時に、言葉で生きています。
その両方の結びつき方は、すべての人によって異なり、こういうものだと前もって言うことはできません。
他人はもとより、大部分は本人にも知られていないからです。
そこで精神分析家は、色付けされない耳で、あなたの言葉と沈黙が聞かれる時間を提供します。
佐藤 正明